仙台地方裁判所 昭和44年(手ワ)75号 判決 1970年8月14日
原告 村田漁業株式会社
右代表者代表取締役 村田勝美
右訴訟代理人弁護士 川原悟
被告 吉田物産株式会社こと 吉田秀臣
<ほか一名>
右訴訟代理人弁護士 渡辺大司
主文
被告等は合同して原告に対し、金二〇〇万円及び内金四〇万円に対する昭和四四年二月二八日以降、内金四〇万円に対する同年三月三一日以降、内金四〇万円に対する同年四月三〇日以降、内金四〇万円に対する同年五月三一日以降、内金四〇万円に対する同年六月三〇日以降各完済まで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告等の負担とする。
本判決は原告が担保として金二〇万円を供託するときは、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、請求の原因として
一、訴外北幸産業株式会社は被告吉田物産株式会社こと吉田秀臣(以下単に被告吉田という)に宛、左記約束手形五通を振出し交付した。
記
(一) 額面金 四〇万円
振出日 昭和四四年一月二七日
振出地、支払地共 東京都中央区
支払場所 永代信用組合日本橋支店
支払期日 昭和四四年二月二八日
(二) 額面金 四〇万円
振出日、振出地、支払地、支振場所いずれも(一)に同じ
支払期日 昭和四四年三月三一日
(三) 額面金 四〇万円
振出日、振出地、支払地、支払場所いずれも(一)に同じ
支払期日 昭和四四年四月三〇日
(四) 額面金 四〇万円
振出日、振出地、支払地、支払場所いずれも(一)に同じ
支払期日 昭和四四年五月三一日
(五) 額面金 四〇万円
振出日、振出地、支払地、支払場所いずれも(一)に同じ
支払期日 昭和四四年六月三〇日
二、被告吉田は右各手形を被告有限会社西条商店(以下単に被告西条商店という)に、被告西条商店はこれを原告に、いずれも支払拒絶証書作成義務免除のうえ裏書交付した。
三、原告は前記(一)の手形を訴外株式会社七十七銀行に、(二)乃至(五)の手形を、訴外株式会社岩手銀行に、それぞれ取立委任裏書をして交付し、右各銀行をして各満期に、右手形を支払場所に呈示して、支払を求めさせたが、取引解約後との理由で、いずれも支払を拒絶されたので、右各手形を右各銀行から取戻して現にこれを所持している。
四、よって被告等に対し右(一)乃至(五)の手形金合計二〇〇万円及び(一)の手形金四〇万円に対する満期日である昭和四四年二月二八日以降、(二)の手形金四〇万円に対する満期日である同年三月三一日以降、(三)の手形金四〇万円に対する満期日である同年四月三〇日以降、(四)の手形金四〇万円に対する満期日である同年五月三一日以降、(五)の手形金四〇万円に対する満期日である同年六月三〇日以降各完済まで年六分の割合による手形利息の合同支払を求めるため本訴請求に及んだと述べ
五、被告西条商店の答弁に対し、同被告の主張二の(一)、(二)の点は否認する、仮に被告西条商店が、本件各手形に裏書後これを訴外北幸産業株式会社に交付したとしても、裏書人が手形上の責任を負うためには、必ずしも被裏書人自身に交付したことを必要とせず、誰かに交付した事実があればよいのであるから、同被告の主張は理由がない。≪中略≫と述べ
六、立証≪省略≫
被告西条商店訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として
一、原告の主張事実中一項の事実は認める。二項の事実は同被告が原告に裏書交付したとの点を否認し、その余は認める。三項の事実中本件約束手形が原告主張の如く呈示され、支払を拒絶されたことを認め、その余は知らない。四項は争う。
二、同被告は次のとおり主張する。
(一) 被告西条商店は本件約束手形五通を、いずれも被告吉田より裏書を受け、これを振出人訴外北幸産業株式会社に裏書交付したものであって、原告に裏書又は交付した事実はない。
(二) 従って
(1) 本件約束手形は、振出人である北幸産業株式会社が被告より裏書交付を受けると同時に混同により無効となったものであるから、その後に原告が右訴外人より右手形を取得したとしても、被告は何らの義務を負うものでない。
(2) 被告は右手形を右訴外会社に裏書交付したのであって、原告に裏書交付したのではないから、原告との間では交付行為を欠缺しており、手形行為そのものが存在していないこととなる。従って、たとえ被告西条商店が署名していても、原告に対し手形債務を負う筋合はない。
(三) ≪省略≫
よって原告の請求に応じ難いと述べ
三、立証≪省略≫
被告吉田は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告の主張事実を否認し、被告吉田の記名押印は、訴外山口四和雄の盗捺偽造にかかるものであると述べた。同被告は欠席して甲号各証の認否をしない。
理由
一、原告主張の一項の事実は、原告と被告西条商店との間において争いなく、被告吉田に対する関係においては、≪証拠省略≫によりこれを認定するに足り、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
二、原告主張の二項の事実について、被告西条商店は、同被告より原告に裏書交付したとの点を否認するほかはこれを認め、被告吉田は同被告名義の裏書部分は訴外山口四和雄の偽造にかかるものである旨抗争するので考察するに、≪証拠省略≫を総合すると、被告西条商店は自己振出の約束手形二通金額合計二〇〇万円について、昭和四三年一〇月二三日原告会社より支払の猶予を受けたところ、その頃同被告会社で働いていた訴外山口四和雄は、昭和四四年一月初頃右の支払いにかえて、振出日と名宛人白地の本件約束手形五通を原告会社に持参したので、原告会社では振出人の北幸産業株式会社のみでは信用できないし、もともと被告西条商店の債務支払であるから同被告等の裏書を取ってくるよう申入れたところ、山口四和雄はこれを了として、同年一月二二日被告吉田方に赴き、右五通の約束手形に同被告本人の裏書をえた後被告西条商店においても同様同被告名義の裏書をえ、同月二七日これを原告会社に持参したので、原告会社では、同日の振出日を記入して、本件約束手形五通を受取った事実を認定することができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
してみると、原告会社が本件約束手形五通を受取った関係は、第二裏書人である被告西条商店より右手形の裏書交付を受けたと同視すべき法律関係にあることは論をまたないし、被告吉田の第一裏書も真正なものといわなければならない。そして被告吉田との関係で右手形について、いずれも支払拒絶証書作成義務が免除されている事実は≪証拠省略≫に照らし明かである。
三、原告主張の三項の事実は、原告と被告西条商店との間では、原告が各銀行から取戻して本件手形を所持している点を除き争いなく、右所持の点は前顕甲第一乃至第五号証の各一が原告の手裡に存することにより明かで、被告吉田との間では≪証拠省略≫により右三項の事実を認定するに足り、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
してみると、被告等は合同して原告に対し、金二〇〇万円及び内金四〇万円に対する昭和四四年二月二八日以降、内金四〇万円に対する同年三月三一日以降、内金四〇万円に対する同年四月三〇日以降、内金四〇万円に対する同年五月三一日以降、内金四〇万円に対する同年六月三〇日以降各完済まで年六分の割合による手形利息の支払をなすべき義務あるものといわなければならない。
四 被告西条商店の二の(一)及び(二)(1)、(2)の主張は同被告が本件約束手形を北幸産業株式会社に裏書交付したことを前提とするものであり、その理由のないことは前記説示のとおりであるから、右主張は採用できない。
(三)次に代物弁済の抗弁につき考察するに、同被告主張の山林につき、原告と同被告との間で昭和四四年二月一七日同年一月二三日付停止条件付代物弁済契約を原因とする停止条件付所有権移転仮登記を経由し、次いで同年二月二八日付代物弁済を原因として同年三月二五日同被告より原告に所有権移転登記を経由したことは双方弁論の全趣旨に照らし関係両当事者間に争いないところ、≪証拠省略≫を総合すると右は原告会社が前記二〇〇万円の債務の担保として、被告西条商店より右山林の所有権移転登記を受けたものであって決して右債務の代物弁済として所有権移転登記を経由したものではない事実を認定するに足り(る。)≪証拠判断省略≫
五 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は理由があるので、これを相当として認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 三浦克己)